昭和27年。金田一耕助(古谷一行)は日和警部(長門勇)の紹介で岡山県鬼首村の亀の湯に逗留する。時あたかも鬼首村は村出身の人気歌手・大空ゆかりこと別所千恵子(夏目雅子)の帰郷を前にして沸いていた。金田一は亀の湯で知り合った多々羅放庵(小沢栄太郎)から、この屋の女主人・リカ(佐藤友美)の夫・源治郎が20年前、恩田幾三と言う詐欺師に殺された事件を教えられる。ゆかりは恩田の娘だったのだ。
放庵は生涯で8人の妻を持ったが、その5番目の妻だったおりんが戻って来たいと言う手紙を寄越していた。金田一は放庵からその返事の代筆を頼まれる。
東京のかね(野村昭子)から事務所が追い立てをくっていると言う報せを受けた金田一は一旦帰京することにする。その途中、金田一は仙人峠で「おりん」と名乗る老婆とすれ違う。
だが総社の町で井筒屋の女将いと(日色ともゑ)から、おりんは去年亡くなったと聞かされ慄然とする。金田一は鬼首村に引き返すが放庵の姿はなく、家には吐血の跡が残されていた。駆けつけた日和警部の指揮で警察と村の青年団が捜索するが、放庵の死体は発見されなかった。
第1シリーズの最終作。シリーズで番長い、全6回放送です。本来は5回の予定だったのに後番組「森村誠一シリーズ」の制作が遅れたために1回分伸びたそうですが、そのため終盤は話のテンポが間延びした感じになり、ドラマとしては少しだれてしまいます。ただ推理物の欠点、特に横溝作品のような人間関係が複雑な物語ではよくわかりにくい謎の解明部分にたっぷり時間をかけていると言う利点はあります。
個人的には市川崑監督の映画版
「悪魔の手毬唄」のほうが好きですけどtv版も出来栄えは上々で、変な改変(改悪)をせず最後まで原作通りに映像化されています。
映画版は犯人の女としての哀しみ、その犯人に寄せる磯川警部の心情を前面に出していましたが、このドラマではむしろ親子、兄妹の情愛をきめ細かに描き、日和警部(磯川警部に相当)の心情はほのかに匂わせるだけにとどめています。犯人が自らは動機を何も語らず死んでしまい、金田一の口から客観的に淡々と描写されるだけなのも、じわじわと犯人の苦しみ、哀しみが伝わって来る効果を生んでいます。
リカ役の佐藤友美は実年齢が若過ぎ(当時35歳)なので8歳しか違わない高岡健二とはあまり親子に見えない点にやや難があるものの、暗い過去と秘密を背負った女性らしい寂しげな翳りのある風情がよく出ていました。映画版の岸恵子は少し明るく華があり過ぎなのに違和感を持っていたので、個人的には佐藤友美のほうに軍配を上げたい気持ち。大空ゆかりを演じた夏目雅子は当時19歳。まだデビューまもない頃なので台詞回しは少したどたどしい感じも受けますが凛とした美しさが印象的です。