明智小五郎(天知茂)は「シマムラサチコ」と名乗る美女から大富豪・鳩野玄太郎(鈴木瑞穂)の娘・鳩野桂子の身元調査を依頼される。その晩、料亭で明智と波越警部が会食していた時に火災が起こり、明智は炎の中から女を救出する。それは明智に調査を依頼した例の「シマムラ」と言う女だった。やがて焼け跡から、女と同伴していた男が刺殺体となって発見されるが、女はどさくさに姿を消す。
翌日、鳩野玄太郎から明智に逢いたいと連絡がある。鳩野邸は珍しい三角形の避雷針があることから三角館と呼ばれていた。 そこで明智は例の女と再会する。彼女自身が鳩野桂子(早乙女愛)だったのだ。
玄太郎の話は、桂子に財産を譲るについて、その遺言の執行の後見人になって欲しい、という依頼だった。桂子は施設から引き取られて育てられた養女であり、玄太郎の妹の鳥井和子(久保菜穂子)たちとはしっくり行っていない様子だった。
明智は桂子に、なぜ自分の身元を調べたいのか尋ねた。10日ほど前に「お前は犯罪者の娘だ」、「おまえの父は人殺しだ」という手紙が送られて来たために、桂子は明智に調査を依頼しようとしたのだ…。
早乙女愛
鳩野桂子役。1958年生まれ(当時26歳)。鹿児島県出身。
1974年、映画「愛と誠」のヒロイン早乙女愛役に公募で選ばれ、役名をそのまま芸名にしてデビュー。
1983年の成人映画「女猫」では大胆な濡れ場を演じ清純派から転向。2010年没。
このシリーズは
「化粧台の美女」に被害者役で出演し、今回は美女役に昇格。
原作のネタ切れで前作
「禁断の実の美女」では遂に短編「人間椅子」にまで手を付けましたが、今回の原作は長編です。ならばドラマ化も容易かと思いきや、そうは問屋が卸しませんでした。
「三角館の恐怖」(昭和26年)はアメリカの推理作家ロジャー・スカーレットの「エンジェル家の殺人」を翻案した作品。三角館と呼ばれる不思議な構造の洋館に住む双子の老兄弟とその家族に起こった、財産相続をめぐる連続殺人を描いた本格推理小説です。しかしドラマではその不思議な構造を映像化できなかったのか、避雷針が三角形をしていると言う素っ気ない由来に変わり、双子の老兄弟と言う設定も消えて単なる一家族の物語になっています。
しかしそれよりも扱い方に困ったのは「美女」の設定でしょう。
このシリーズのヒロインは「運命に翻弄される」美女でなければならないはずですが、原作の桂子は奔放で多情な、あまりヒロインに相応しくない女です。かと言って桂子の性格を変えてしまうと、犯人とその動機まで変えねばなりません。と言うわけで、ドラマでは桂子が奔放で多情、かつ不幸な生い立ちと暗い過去を背負っていると言う分裂した性格を加味しています。お蔭で感情移入も同情もできない中途半端なものになってしまいました。
それを補うためなのか、物語は「二人の父親」による父性愛を描いています。脚本の江連卓は大映ドラマの常連だっただけにドロドロした人間ドラマとお涙頂戴劇はお手の物ですが、なんと明智小五郎までが桂子に対して父性愛丸出しです。天知さんの加齢でヒロインとの恋愛模様を描き難くなった事情もあるのかもしれませんが、色気のない明智では魅力が半減です(尤もその反動なのか次作
「妖しい傷あとの美女」では美女との一線を越えちゃっていますが)。
お楽しみ?のエロシーンも、脱ぎ要員2人のヌードはあるものの肝心の早乙女愛には入浴シーンもシャワーシーンもない有様。明智小五郎にもいつもの生死不明という展開がありません。その結果、謎解き前の変装にも必然性が乏しいです。犯人の意外性などに本格推理ドラマとしての見所はあるものの、エロスや妖しさが乏しく、美女シリーズとしての醍醐味は薄い作品です。
シリーズ2度目となる早乙女愛さんは
「化粧台の美女」の被害者役から今回は美女役に昇格。
「魅せられた美女」美女役の岡田奈々さんが
「白い乳房の美女」で被害者を演じたのとは逆のパターンです。
久保菜穂子さんは天知さんと新東宝の同期生で、当時は悪役だった天知さんに襲われる役が大半でした。新東宝退社後は天知さん同様に東映や大映の映画に出演しましたが、不思議と接点がなかったので今回が久し振りの共演だったのではないでしょうか。
萩原流行さんは当時土曜ワイド劇場で放送された「疑惑の男」(1984年9月22日)でロス疑惑の三浦和義をモデルにした主人公を演じ一躍個性派俳優として注目を浴びました。