明智小五郎(天知茂)は北海道から東京へ向かう飛行機の中で高名な推理作家の北見佳子(萬田久子)と知り合う。佳子は取材旅行の帰りだった。
自宅に戻って入浴を終えた佳子は書斎の椅子に身を委ねて寛ぐ。だがその椅子の中に不気味な男(レオナルド熊)が潜んでいて、みだらな妄想を繰り広げていた。
佳子は宝石商の高杉大作(内田朝雄)の御曹司・孝太郎(中島久之)と婚約していた。ホテルで高杉家との会食のあった晩、佳子は元編集者の野呂(宮口二郎)からこの結婚は辞めた方がいいと言われる。更に前の夫・土田(山本紀彦)から披露宴をぶち壊されたくなければ1000万円を出せ、と要求される。その直後、佳子は化粧室で顔を隠した男にロープで首を締められる。
波越警部(荒井注)は野呂と土田を疑うが二人にはアリバイがあった。退院した佳子のもとを孝太郎の妹の裕子(小田桐かほる)が訪れ、佳子の仕事を手伝うことになる。だがある晩、原稿の清書をしていた裕子は背中を一突きにされ殺害される。裕子がかけていた椅子を調べると何者かが潜んでいた痕跡が残されていた。
明智と波越警部は椅子作りを受注したインテリアへ向うが、椅子職人の黒川は数日前から行方不明になっていた。黒川の部屋を捜索した明智は手記を発見する。そこには佳子から椅子作りを頼まれた黒川が人間椅子を仕上げ、その中に潜んでいた生活が赤裸々に綴られていた…
萬田久子
北見佳子役。1958年生まれ(当時25歳)。大阪府出身。
短大在学中の1978年(昭和53年)にミス・ユニバース日本代表に選出され、翌年芸能界入り。1980年のNHK朝の連続テレビ小説 「なっちゃんの写真館」で女優としてデビュー。
土曜ワイド劇場 「京都殺人案内」では1983年から27年間、主人公音川の娘洋子役を演じた。
土曜ワイド劇場の1984年年頭を飾ったお正月作品。過去2年と違い放送時間は通常枠でしたが、まだまだ看板シリーズであったことに変わりありません。尤も80〜82年は年に3作ずつ放送されていたのに対して83年は2作に減っているので明らかにペースダウン。ドラマ化できる原作長編が底をついた結果、遂に短編「人間椅子」にまで手を付けると言うタブーを犯した作品です。そのためにはよほど力量のある脚本家でなければならないわけで、久々にジェームス三木が登板しています。ただ合作の形を取っており、もう一人の脚本家の山下六合雄はジェームス三木の実弟です。推測ですが、おそらく脚本は弟が中心になって書き三木は監修した程度ではないでしょうか。…と思いたくなるほどジェームス三木の名を冠したにしては平凡な出来ばえです。
前半は美貌の女流作家・北見佳子に恋慕した孤独な醜い椅子職人の黒川が自ら人間椅子となって想いを遂げようとする原作のテイストを描いています。椅子の中に潜んだ黒川がみだらな妄想を繰り広げるイメージシーンは、演じたレオナルド熊さんの怪演もあっていやらしさ全開です。しかしその後は例によってドラマのオリジナルストーリー。人間椅子の秘密は早々と明らかにされてしまい、佳子の周辺で起こる連続殺人の謎を明智小五郎が追うという展開になっています。
まず佳子の助手となったばかりの裕子が椅子の中から一突きに殺害されます。シリーズでは映像化されませんでしたが、これはおそらく
「氷柱の美女」の原作「吸血鬼」にあるエピソードの流用でしょう。続いて佳子の秘書・根岸咲子が自宅の浴室で襲われ、全裸で惨殺されます。前作
「白い素肌の美女」に続いてまたしても秘書が大きな黒ブチ眼鏡をかけているのは、スタッフの中に眼鏡っ子好きでもいたのでしょうか。次は佳子が転居したマンションを訪れた孝太郎が何者かに狙撃されて死亡。犯人は失踪した黒川なのか、それとも!?…というわけで、黒川以外にも怪しい人物が蠢く愛憎入り混じった人間関係を軸に物語は展開し、この辺はそれなりに上手く出来てはいます。冒頭から明智先生が同じ飛行機に乗り合わせた佳子に対して強く惹かれ久々に美女にメロメロになる点も注目です。
ただ原作が「人間椅子」であることを考えると果たしてこんな話でいいいのか?と言う疑問は付きまといます。前半こそ原作を反映しているものの、それ以降は「人間椅子」の世界からは遠くなって行き最後はお決まりの復讐劇。今回は折角「人間椅子」を用いたのだから、やはり最後まで原作の怪奇幻想性を反映させなければ台無しでしょう。
今回の美女・萬田久子さんは黒髪のロングヘアが印象的ですが、正直言ってそれ以外はあまり特徴のない女優さん。つかみどころの無い感じで個人的にはあまり魅力を感じないのでした。
レオナルド熊さんは石倉三郎さんとのコンビ「コント・レオナルド」でお笑いブームの一翼を担いこの前年にはCMでも人気になりました。ちなみに朝野ユリ役で出演している中川加奈さんは熊さんの実の奥さんです。
丸山秀美さんは土曜ワイド劇場の「牟田刑事官事件ファイル」シリーズで牟田刑事官の娘役を18年間演じたほか時代劇でもお馴染み。確か「開幕ベルは華やかに」と言う83年の新春スペシャルドラマでは脱いでいた記憶がありますが今回はヌードなし。