明智小五郎(天知茂)は助手の文代(高見知佳)と小林(小野田真之)に無理矢理ディスコに連れてこられるが、早々と退散する。その帰り道、明智は切断された片腕を持った尼僧の姿を目撃する。明智は尼僧を尾行するが荒寺で姿を消す。
翌日、風船に吊り下げられた女性の切断された両脚が発見される。
山野文化学院の理事長、山野五郎(田中明夫)の後妻・百合江(叶和貴子)から茶会に呼ばれた明智は、義理の娘・三千子(美池真理子)が行方不明になっているので捜してほしいと依頼される。三千子は5日前、密室状態の部屋から忽然と姿を消してしまったと言う。
数日後の深夜、あるデパートに尼僧が侵入。翌日、デパートの和服売場でマネキンの腕が切断された人間のものとすり替えられているのが発見される。その手首の指には三千子の指輪がはめられていた。更に百合江宛ての小包で切断されたもう一方の腕が送られて来る…
原作「盲獣」(昭和6年)は盲目の殺人淫楽者が次々と美女を捕えて弄び、責め苛み、殺し、そして死体をバラバラにして展示して回ると言う、乱歩作品の中で最もエログロ度の強い小説。 晩年の乱歩は「作者自らが吐き気を催すほどだ」として、一部のエピソードを全集から削除したほどです。なので当然ながら原作のままドラマ化されるはずもなく、話の大部分は「一寸法師」(大正15年)から借りています。ただし一寸法師は尼僧に置き換えられ、百合枝夫人に懸想する怪マッサージ師の存在など一部にのみ「盲獣」らしさが残っています。脚本は大愚作
「天使と悪魔の美女」の篠崎好が連投していますが、今回はほぼ原作に沿った筋立てなので、まあ無難な出来上がり。
物語は冒頭、文代と小林によってディスコに連れてこられた明智小五郎がぎこちなく踊るシーンから始まります。シリーズ末期の特徴として、放送年代(80年代)の風俗や流行を積極的に取り入れていることが挙げられます。井上梅次監督時代のシリーズは時代設定こそ現代(70年代)に置き換えていたものの劇中に反映させることは抑え目でした。今となって見れば極力古めかしさを残そうとしていた井上時代よりも、むしろ新しさを出そうとした末期の作品のほうが古臭く感じてしまうのは皮肉です。
そのディスコを抜け出した明智が生腕を持ち歩く謎の尼僧と遭遇する発端から事件の幕を切るわけですが、闇に映える桜の美しさをコントラストさせたスタイリッシュな構図に象徴されるように、原作の怪奇性は薄められています(ちなみに「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と言うのは梶井基次郎の小説「桜の樹の下には」の冒頭の一節です)。
その後はバラバラ死体の事件と令嬢が密室から失踪した不可解な謎とが絡み合っていくわけですが、演出が淡々しているせいもあってかイマイチ盛り上がりに欠ける展開。その分は百合江と宇佐美鉄心の二人に注目すべきなのでしょう。鉄心の「触覚芸術」を具現化した不気味な身体部位のオブジェの部屋は、巨大な手や足、乳房などのモニュメントがお決まりの安っぽい悪趣味で描かれています。
最後は、例によって明智の変装ベリベリから鮮やかな謎解きが展開しますが、真犯人がドラマ中に提示されていないのでちょっと釈然としない結末。確かにここも原作通りって言えばそうなのですが、テレビ的にはもう一工夫欲しかったところです。
ちなみに「一寸法師」は何度か映画化されていますが、1955年公開の新東宝版
「一寸法師」にはなんと若き日の天知茂さんが探偵助手役で出演しています。尤も探偵役は何故か明智小五郎とは別の名前に変更されているので、残念ながら天知さんが「明智先生!」と呼びかける場面はありません。
叶和貴子さんは
「天国と地獄の美女」に続く美女役。シリーズで美女役を2回演じた女優にはほかにも夏樹陽子さんと金沢碧さんがいますが、この2人が1度目と2度目では正反対のキャラクターだったのに対して、叶さんの場合は1度目と同様に良家の貞淑な令夫人役を再び演じています。入浴シーンもありますが、残念ながら今回のヌードは吹替えです。
事件の鍵を握る宇佐美鉄心を怪演した中条きよしさんもシリーズ3度目の出演。最初の
「エマニエルの美女」ではすぐに殺されてしまう役どころでしたがシリーズが続いている間に大物俳優へと成長し、今回は配役クレジットでもトメの準主役級です。
美池真理子、飯野けいとはいずれも80年代に短期間活動した女優で、美池真理子さんは
「特捜最前線」のゲストで何度か見たことがあります。飯野けいとさんはよく知りませんが東映の特撮物などにゲスト出演していたようです。
レアなのは曽我町子さん。初代オバケのQ太郎の声やスーパー戦隊シリーズの女王役、管理人世代だと「レインボーマン」のゴッドイグアナを連想する吹き替えや特撮物で有名な女優さんですが、このドラマには小松ひとみが住んでいたアパートの管理人役で1シーンのみ素顔で出演しています。