江戸川乱歩の美女シリーズ
天使と悪魔の美女 江戸川乱歩の「白昼夢」
天使と悪魔の美女
制作テレビ朝日、松竹
放送局テレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」
放送日1983年1月1日(土) 21:02-23:21

■スタッフ

プロデューサー/稲垣健司(テレビ朝日) 佐々木孟
原作/江戸川乱歩
脚本/篠崎 好
音楽/鏑木 創
撮影/鈴木則男 美術/川島泰造 照明/渡辺 康 録音/山岸壮二 編集/北見精一 記録/宮下こずゑ 装置/石渡敬之助 装飾/小林武男 美粧/相馬優子 スチール/樋口 通
調音/松竹映像録音スタジオ 衣裳/松竹衣裳 現像/東洋現像所
助監督/増田 彬 伊予田一雄 進行/高階 光 制作主任/松田康史
振付/松見 登 プロデューサー補/大塚尚史 製作担当/中沢宣明
協力/ロコ・アトリエ・タカダ ユキベルファム きもの鈴乃屋 洋服の新紳 アコマ医科工業 S.K.Y.山田医療照明
企画協力/ジェームズ三木
監督/井上梅次

■キャスト

明智小五郎(私立探偵)/天知 茂

青木芳江(愛之助の妻)/高田美和

文代(明智の助手)/高見知佳

カオル(愛之助の姪)/美保 純

小林少年(明智の助手)/小野田真之(三ツ矢真之)
佐川(愛之助の秘書)/草川祐馬

九鬼(舞台演出家)/勝部演之
辰巳(アキの助手)/佐野 守

青木家の家政婦/北城真記子
タクシーの運転手(カオルと入れ替わった男)/宮口二郎
覗き部屋の女将/星野晶子

刑事/堀 之紀
郵便配達員/喜田晋平
/篠 光子
刑事/羽生昭彦

/佐藤修三
/島本 洋
/渡辺一彦
/松竹歌劇団

波越警部/荒井 注

三田村アキ(愛之助の主治医)/鰐淵晴子

青木愛之助/中村嘉葎雄

■ストーリー

クリスマスイヴの夜、明智小五郎(天知茂)は大富豪青木愛之助(中村嘉葎雄)邸の仮装舞踏会に招かれる。 明智は青木に、妻の様子がおかしいので調査して欲しい、と依頼されていたのだ。明智はそこで、青木、妻の芳江(高田美和)、主治医の三田村アキ(鰐淵晴子)、姪のカオル(美保純)、秘書の佐川(草川祐馬)、舞台演出家の九鬼(勝部演之)の間に渦巻いている異様な関係を目の当たりにする。
正月を迎えて華やぐ明智探偵事務所に青木から電話がかかって来て、明智は近所のホテルに呼び出される。青木の依頼で芳江を尾行した明智は、下町の隠し部屋で芳江と九鬼が痴態を繰り広げている姿を見る。
屋敷に戻った青木と明智は、さっきまで隠し部屋にいたはずの芳江がいるのを見て驚く。芳江は外へは一歩も出なかったと言う。すると隠し部屋で目撃した芳江はいったい何者だったのか?
そこへ波越警部(荒井注)から電話があり、久鬼が殺されたと言う連絡が入る。九鬼の死体の傍らには黒薔薇が置かれていた。その黒薔薇は芳江にも送られ、更に三田村アキにも送られていた…。

■美女ファイル No.20

高田美和
高田美和
青木芳江役。1947年生まれ(当時35歳)。京都府出身。
父は往年の時代劇スター・高田浩吉。
1962年、大映に入社し同年の「青葉城の鬼」でデビュー。「十七才は一度だけ」などの青春映画に主演し清純派青春スターとして活躍。大映退社後はテレビと舞台に仕事の場を移す。
1982年、にっかつロマンポルノ「軽井沢夫人」に主演し大胆なベッドシーンとヌードが話題を呼んだ。

■管理人の感想

今回からシリーズが刷新され監督に村川透、脚本に篠崎好が起用され、レギュラーの文代役は高見知佳、小林少年役は小野田真之に交替しています。
しかも前年の「天国と地獄の美女」に続き放送時間枠を拡大したお正月スペシャル版。この年は1月1日が土曜日だったのでシリーズ唯一の元旦の放送となりました。
つまりこれ以上ない華やかな形で新生「美女シリーズ」のスタートを切ったわけですが…残念ながら内容的にはシリーズ最愚作と言わざるを得ません。
原作は「白昼夢」となっていますが実際は「猟奇の果て」から一部を借りただけのテレビオリジナルです。しかし江戸川乱歩原作を謳っている以上は、たとえオリジナルであっても乱歩らしい作品を作るのが義務と言うものでしょう。その点この脚本家はちゃんと乱歩を読んでいるのか疑わしい。
まず一番辟易したのはレズビアニズムをテーマに据えていること。しかし乱歩は「孤島の鬼」をはじめとしてホモセクシュアリズムを滲ませた作品を書きましたが、レズビアニズムの世界とは全く無縁です。つまりこの脚本家は最も乱歩らしくない話を書いたわけです。
元歌劇スターのカムバック話と言う題材にも乱歩らしさ、美女シリーズらしさがなく、シリーズ全体を見渡してもこれひとつだけ浮いています。百歩譲ってそれは措くにしても肝心の事件そのものに全く魅力がありません。犯罪の動機が青木を1人殺せば事足りる極めて単純なものあるため、中身の薄い話を無理矢理引き延ばしているようにしか見えないからです。
物語は第1部と第2部に分かれ、前半だけで5人もの人間が死にます。数だけ見るとたいそうな事件に思えますが、九鬼とカオルは口封じで殺されたに過ぎず、しかもよく考えてみるとこの時点で犯人はまだ何も事件を起こしていないのに口封じだけが先行するちぐはぐな構成になっています。佐川に至っては嫉妬に駆られたカオルの仕業なので本筋と全く無関係。つまり前半で起こるのは枝葉の事件ばかりです。
後半はすぐに青木と偽の芳江が殺されて事件が終わってしまうので、以後は謎解きがだらだらと展開します。そのため最後に明智先生が変装を剥がす意味が全くありません。
更に致命的なのは、折角、青木愛之助と言うエキセントリックなキャラクターを登場させておきながら、その使い方を間違えていることです。本来なら全ては彼が仕組んだ猟奇の果ての犯罪なのかもしれないと言う描写を前面に押し出すべきなのに、ただ単にネチネチと芳江に嫌味を言って喜んでいる程度の魅力のない人物に成り下がっています。

冒頭、明智小五郎が招待された異様なパーティと、そこで披露された拷問コレクションの数々、妻に不貞をさせてその様子を覗き見る夫、浴室で繰り広げられる人妻と若い男の痴態、追い詰められた夫が全てを精算したかに見えて一件落着した後にまだ続きがあり、ベッドに縛りつけられた明智への拷問…。これらのシーンは、過去のシリーズでも同じものを見たような気がしないでしょうか?それもそのはず。クレジットに「企画協力・ジェームス三木」とあるように、実は三木が脚本を手がけた「エマニエルの美女」の完全な焼き直しだからです。でもいくら公認とは言えプロの脚本家が他人様のパクりとは情けない。だったら直接ジェームス三木が書いたほうがもっといい話が出来たでしょう。
脚本のグダグダ振りを更に増幅しているのが村川透の間延びした演出です。物語は明智小五郎が夜霧の街路を歩いて来るスタイリッシュな構図から始まりますが、この演出からしてまず従来の井上監督とは随分異なっています。乱歩の映像化で多くの監督が陥る錯誤は変に勿体ぶった雰囲気作りから入ろうとすることですが、まあたいていの場合無残に失敗していますね。同じ日活出身でも井上監督がテンポの良い演出で乱歩の通俗スリラー物が持つ探偵活劇の面を生かそうとしたのとは対照的です。

脚本・演出のまずさで損をしていますが、出演者は健闘しています。高田美和さんはこの前年公開されたロマンポルノ「軽井沢夫人」に主演したそのままの勢いで熱演。この後に神津恭介シリーズの「刺青殺人事件」でも再び大胆なヌードを披露しています。
「ノンちゃん雲に乗る」で有名な往年の美少女子役だった鰐淵晴子さんもヌードこそないもののボンデージスーツ姿でSMの女王様を熱演。
中村嘉葎雄さんは言うまでもなく時代劇の大スター萬屋錦之介の実弟。兄そっくりなので若い頃は損をしていましたが中年以降は独自の存在感を発揮し、この作品でも実質主役と言ってもいい怪演を見せています。 今回の脱ぎ役・美保純さんはロマンポルノ出身ながらアイドル的な人気で一般の知名度も高く、この時期はCMにも出演していました。ちなみに天知さんとはこの後に伝説のスタジオコメディ「AカップCカップ」(テレビ東京)でも共演しています。
さて今回から加わった新・文代役の高見知佳と新・小林少年役の小野田真之。高見知佳さんは前任の五十嵐めぐみさんとは180度異なる軽躁な小娘キャラで、明智との関係も親子にしか見えません。その良し悪しはともかくとして、リニューアルに相応しく明智探偵事務所の雰囲気をがらりと変えたことは確かです。方や小野田真之さんは「少年」と言う肩書が反語に掛かってしまう老け顔のみが印象に残る地味キャラなので存在感が薄いです。










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