江戸川乱歩の美女シリーズ
白い乳房の美女 江戸川乱歩の「地獄の道化師」
白い乳房の美女
制作テレビ朝日、松竹
放送局テレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」
放送日1981年4月4日(土) 21:02-22:51

■スタッフ

プロデューサー/植野晃弘(テレビ朝日) 佐々木孟
原作/江戸川乱歩
脚本/宮川一郎
音楽/鏑木 創
撮影/小杉正雄 美術/川島泰造
録音/橋本泰夫 照明/飯嶋 博 編集/鶴田益一 助監督/増田 彬
記録/増田実子 装置/谷津勝利 装飾/磯崎 昇 結髪/三岡洋一
美粧/落合朋子 衣裳/松竹衣裳 調音/松竹映像録音スタジオ 現像/東洋現像所
進行/中沢宣明 プロデューサー補/中山滋弘 製作主任/大川 修 衣裳協力/(株)インターモード 新紳
監督/井上梅次

■キャスト

明智小五郎(私立探偵)/天知 茂

野上愛子(バレリーナ)/岡田奈々

文代(明智の助手)/五十嵐めぐみ

相沢麗子(バレリーナ)/白都真理

野上みや子(愛子の姉)/片桐夕子

小林少年(明智の助手)/柏原 貴
アケミ(綿貫の愛人)/北原理絵(北原リエ)

チンドン屋/茶川一郎
白井バレエ団の制作担当者/北町嘉郎(北町嘉朗)

野上姉妹の母/星野晶子
病院の付添人/岡部正純(岡部征純)

相沢京介(麗子の父)/高橋昌也

刑事/羽生昭彦
刑事/城戸 卓
運送屋の運転手/喜田晋平
画廊の主人/岡本正幸(岡本忠幸)
/志馬琢哉
たばこ屋の主人/今井健太郎

相沢病院の看護婦/白石幸子
伊藤ふじ子の母/村上記代
たばこ屋のおかみさん/水木涼子
刑事/小田草之介
検視官/加藤真琴
交番の警官/渡辺憲悟(峰憲吾)
科捜研所員/鈴木謙一

バレエ団の団員/林とおる
喫茶店のウェイトレス/伊藤晶子
接触した車の男/沖 秀一
子供/中野智行
井上博文バレエ団

綿貫創人(彫刻家)/蟹江敬三
 
波越警部/荒井 注

白井清一(白井バレエ団の主宰者)/荻島真一(荻島眞一)

■ストーリー

バレエ「白鳥の湖」の主役を目指している野上愛子(岡田奈々)の姉みや子(片桐夕子)に、差出人不明の不気味なピエロの人形が送られてくる。翌日、みや子が失踪。数日後、石膏像の中から顔の潰れた女の死体が発見され、愛子の証言でみや子と確認される。
その通夜の晩、野上家の庭にピエロが現れ、愛子に殺人を予告する。やがて愛子も失踪し、更に愛子とプリマの座を争っていた麗子(白都真理)の元にもピエロの人形が送りつけられてくる。明智小五郎(天知茂)はバレエ団の主催者白井清一(荻島真一)に疑惑の目を向けるが…

■美女ファイル No.16

片桐夕子
片桐夕子
野上みや子役。1952年生まれ(当時29歳)。東京都出身。
銀行OLを経て1970年に日活へ入社。
1971年からロマンポルノに転じた日活初期のスター。
このシリーズには「脱ぎ役」で多くのポルノ女優さんが出演していますが、タイトルの美女役を演じたのは片桐さんただ一人です。
80年代以降は一般映画やドラマで活躍しています。

■管理人の感想

これはほぼ乱歩の原作通りの内容なのですが、美女シリーズとしては少し異色です。 まず、タイトルの「美女」がヒロインではありません。と言うより、この作品にはそもそも特定のヒロインがいません。過去のシリーズでは、原作の中に適当なヒロインがいない時には強引に創造してしまう(例えば「赤いさそりの美女」のように)ことすらあったくらいですが、この作品に限ってはその手が使えません。物語の根幹に触れるからです。
次に、この作品は本格ミステリーの体裁がとられています。もともと乱歩の通俗長編は推理や謎解きにこだわっていないため、犯人が最初からバレバレなことが多いのですが、この作品の場合は珍しく冒頭から伏線が敷かれ、最後まで誰が犯人かわからないように工夫されています。 更に「死」を予告するピエロは、今までありがちな単なるこけおどしで登場するのではなくて、「犯人が何故ピエロのような目立つ格好をあえてしなければならなかったのか?」が謎を解く重要な鍵になっています。 「お前にわかるか?この世の中に絶望した人間の気持ちが…」 と言う犯人の呪詛の言葉も過去に例がないほど陰惨で不気味です。
原作が書かれたのは昭和14年(1939年)。既に戦時下で、乱歩の筆も従来のようなエログロは抑えざるを得なかった時代の作です。それが却って余分なものをそぎ落としてサスペンス度の高いミステリーを生んだ反面、乱歩にしてはいささか地味な内容が物足りなくもあります。まして美女シリーズの中の一編として見ると、かなり華やかさに欠ける点があることは否めません。
ドラマはその部分を補うため、原作を損なわない範囲で視聴者を惹き付ける味付けを凝らしています。 まず露骨で扇情的なタイトル、そのタイトル通りに冒頭からいきなり売り物の入浴シーンで乳房のアップが登場。しかしこれは単なるサービスカットではなく、その巨乳の持ち主・野上みや子を演じる片桐夕子の陰鬱な表情とともに、後の展開に大きな意味を持つ重要なシーンです。
物語の舞台をバレエ団に置き、主役の座をめぐるを争いを、白井清一をめぐる愛憎関係に絡ませ、前面に押し出しています。このキャスティングもなかなか凝っています。 シリーズで過去に「美女」役を務めたことがある岡田奈々がまた出演しているので、てっきり彼女がヒロインなのかと思いきや、意外にも物語の序盤で犯人の毒牙にかかり、途中で退場してしまいます。
また、同じくシリーズで過去に犯人役を演じた荻島真一が再び出演している上に、役柄も荻島さんにありがちな、野心満々のバレエ団経営者。「何が名探偵ですか!」と明智をこき下ろすのも、以前犯人役だった時にも飛び出した名台詞の再現です。一見、爽やかな二枚目でありながらふてぶてしさも兼ね供えた荻島さんのキャラクターは、視聴者に、いかにも彼が犯人ではないかと思わせる上で効果的です。「出演者で展開が予め読めてしまう」のが、よく言われるサスペンスドラマの欠点なのですが、それを逆手に取ったキャスティングで物語の設定を生かすことができるのも、長くシリーズが続いてきた賜物でしょう。
これに加え、事件に絡む胡散臭い彫刻家役の蟹江敬三、土曜ワイド劇場では常連の美人女優白都真理や、定番のインテリおやじ役高橋昌也ら脇を固める役者さんたちも当時のミステリードラマで選りすぐりの人材。一癖も二癖もあり気な出演者たちが、錯綜する物語を更に複雑で面白いものにしています。
そして、野上みや子を演じた片桐夕子の存在感。 殆どグルグル巻きの包帯姿で顔を出せないのは女優さんにとってはちょっと酷ですが、その分、演技力が必要とされる役柄でもあります。その難しい大役を見事に果たしてくれました。
「地獄の道化師も、愛が欲しかった…」
犯人の哀しい最期には絶句…まさかこのシリーズで、目から汗?が出てしまうとは思いませんでした。 この場面では、ラストの数分間に天知茂の明智小五郎には台詞が一言もありませんでした。なくっても、いいんです。ただ眉間に皺を寄せた痛ましい表情だけで、事件の全てを物語っているからです。「顔で芝居ができる」天知先生ならではのエンディングが、物語の余韻をより深いものにしています。










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