江戸川乱歩の美女シリーズ
魅せられた美女 江戸川乱歩の「十字路」
魅せられた美女
制作テレビ朝日、松竹
放送局テレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」
放送日1980年11月1日(土) 21:02-22:51
監督井上梅次
脚本成澤昌茂、井上梅次
音楽鏑木 創

■キャスト

明智小五郎(私立探偵)・沖 良介(棋士)/天知 茂(ニ役)

沖 晴美(新進歌手、良介の妹)/岡田奈々

文代(明智の助手)/五十嵐めぐみ

佐藤桃子(バー桃子のママ)/奈美悦子

小林少年(明智の助手)/柏原 貴
署長/北町嘉朗

伊勢友子(伊勢省吾の妻)/西尾三枝子
芸能記者/吉田良全
運転手/喜多晋平(喜田晋平)

ホテルの仲居/松井紀美江
芸能記者/横山 繁
伊東の刑事/小田草之介
マンションの管理人/今井健太郎
名位戦の対戦者/岡本正幸(岡本忠幸)
刑事/城戸 卓

桃子のバーテン/沖 秀一
将棋記者/小森英明
交番の警官/篠原靖夫
刑事/羽生昭彦
/田中哲也
伊東の警官/上地雄大

真下幸彦(晴美のマネージャー)/中条きよし

/工藤和彦
将棋記者/加藤真琴
ホテルのフロント/鈴木謙一
/永妻 晃
/楢岡 泉
桃子のホステス/酒井栄子
/松尾友子

波越警部/荒井 注

伊勢省吾(エメラルドプロ社長)/待田京介

■ストーリー

売り出し中のアイドル歌手・沖晴美(岡田奈々)は棋士の兄・良介(天知茂)と2人兄妹。良介が名位戦に挑んだ日の夜、晴美のマンションに社長の伊勢(待田京介)が引っ越し祝いに来る。そこへ、晴美と伊勢が愛人関係にあると思い込んだ伊勢の妻・友子(西尾三枝子)がナイフを振りかざして侵入してくる。晴美はもみあっているうちに友子を刺してしまい気を失った。目覚めてみると、友子は死んでいた。伊勢は動揺する晴美を説得し、自殺に見せかける工作をする。
友子に変装した晴美が伊豆に行き投身自殺を偽装し、伊勢は死体を沼に沈めて処分しようした。だが酔って偶然伊勢の車に乗り込んでいた良介にその様子を見られてしまう…。
魅せられた美女 魅せられた美女 魅せられた美女

■美女ファイル No.13

岡田奈々
岡田奈々
沖晴美役。1959年生まれ(当時21歳)。岐阜県出身。
1974年、オーディション番組「あなたをスターに!」の第2回チャンピオンとなり、翌75年に歌手デビュー。テレビドラマ「俺たちの旅」でも人気を博しアイドルとして活躍。
1979年から本格的に女優に転向し、「スクールウォーズ」(1984年)「乳姉妹」(1985年)などの大映ドラマに常連で出演。
このシリーズには「白い乳房の美女」にも出演しています。

■管理人の感想

「魅せられた美女」って、今では何のことやらわからないタイトルですが、当時の大ヒット曲、ジュディ・オングの「魅せられて」に因んでいることは明白です。歌は世につれ、世は歌につれ。
原作は乱歩の数少ない戦後の小説のひとつで1955年(昭和30年)に書下ろしで発表され、翌年には「死の十字路」と言うタイトルで映画化されています。その監督を務めたのが実は井上梅次監督。乱歩の回顧録『探偵小説四十年』の中にも、
"映画評も従来のミステリものに例のない好評であった。ずっと後に座談会で井上梅次さんに会ったとき、「僕の代表作は『死の十字路』だといわれているのですよ」という話であった"
と言う一節があります。生前の乱歩と井上監督に面識があったことも興味深いのですが、まだ新進時代の井上監督の代表作が乱歩原作映画だったことに因縁を感じます。
それから四半世紀を経て今回が井上監督にとっては2度目の映像化と言うことになるわけですが、「死の十字路」が原作に忠実だったのに対して、今回はセントラルプロットはほぼ同じながらストーリーは"美女シリーズ"らしく改変されています。
まず原作には明智小五郎が登場しません。しかも倒叙物で常に犯人側の視点から描かれているため探偵役の存在は地味で影が薄いです。なのでこのドラマではヒロイン沖晴美をフィーチャーしつつ、そこに明智を絡めた結果、なんと明智が晴美のお兄さんと瓜二つ、と言う無理矢理な設定になっています(それにしても随分年の離れた兄妹ですが…^^;)
魅せられた美女 魅せられた美女 実は原作でお兄さんにそっくりなのは南と言う悪徳探偵でした。ドラマではこのキャラクターを分解して中条きよし演じる小悪党に置き換えた上で、「そっくり」と言う要素だけは明智の方に当てはめているわけですが、ややもすれば希薄になってしまいそうな明智とヒロインとの関係を補うために役立っています。
更に原作の犯人=伊勢省吾は悪人ではではなく単に偶然に偶然が重なり悲劇を呼んでいくのですが、ドラマでは偶然を利用して己れの完全犯罪を成し遂げようとする怜悧で狡猾で自信たっぷりなキャラクターに描かれています。しかもあろうことか明智を挑発。二人の智恵比べ、対決がメインストーリーをなしています。
倒叙物で予め犯人がわかっているので、要は明智が犯人をどのように追い詰めていくのか、また視聴者にも伏せられている死体の隠し場所はどこなのか、と言う点に視聴者の関心は集中するわけですが、犯人が誘導して一度大がかりな捜索を行わせた場所に改めて死体を隠そうとする、と言うプロットは「刑事コロンボ」シリーズの「パイルD-3の壁」に似ています。
怪人が跳梁跋扈するタイプの話とは違うだけにこのシリーズ特有の妖しいムードが足りないのは致し方ないのですが、これ一個の作品として見ればそれなりに面白く出来ています。
強いて難を言えば、最後は例によって明智の変装で事件が解決してしまう点。ここは「刑事コロンボ」のように、伊勢が再度死体を沼に隠しに来たところを明智が押さえて鼻をあかす…という結末にした方が物語が締まったと思うのですが、こういうところは約束事に縛られて作品ごとの柔軟な演出ができない、シリーズ物の宿命と言えるかもしれません。

この作品の見所はなんと言っても明智と沖良介の二役を演じ分ける天知茂。天才棋士で、酒癖は悪いが妹思いで…なんて役柄の天知さんは他でも余り見られないんじゃないでしょうか。ニヒルなイメージが先行しがちな天知さんの、意外な芸域の広さが垣間見れますし、天知さん自身タバコの持ち方にも明智の時とは変化をつけるなどノリノリで演じている感じです。フィルム合成によりこの良介と明智、つまり天知さん同士の"共演"シーンも実現するなどファンサービスも満点です。
良介の時とはがらりと打って変わった、ダンディな中にも闘志を漲らせた明智を演じる時の天知さんの貫禄も見所です。対する伊勢を演じた待田京介さんも日活や東映で活躍した個性派スターだっただけに、天知さんと張り合う格は十分。あとできればヒロインにはタイトルの由来通りジュディ・オングさんをキャスティングして欲しかったですが…まあ、無理だったのでしょうね^^;










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