江戸川乱歩の美女シリーズ
赤いさそりの美女 江戸川乱歩の「妖虫」
赤いさそりの美女
制作松竹 テレビ朝日
放送局テレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」
放送日1979年6月9日(土) 21:02-22:54

■スタッフ

プロデューサー/中井 義 植野晃弘(テレビ朝日) 佐々木孟
原作/江戸川 乱歩 「妖虫」より
音楽/鏑木 創 撮影/平瀬静雄
美術/出川三男 録音/鈴木正男 照明/石渡健蔵 編集/鶴岡益一
助監督/増田 彬 装置/谷津勝利 装飾/町田 武 記録/高橋たつ子 進行/早川喜康 大川 修
床山/三岡洋一 美粧/相馬優子 調音/松竹録音スタジオ 現像/東洋現像所 プロデューサー補/徳重里司
製作主任/吉岡博史 衣装協力/キングシープ紳士服 協力/高田爬虫類研究所
脚本・監督/井上梅次

■キャスト

明智小五郎(私立探偵)/天知 茂

文代(明智の助手)/五十嵐めぐみ

狩野五郎(疋田博士の助手)/入川保則

相川珠子(相川操一の娘)/野平ゆき

相川 守(珠子の兄)/速水 亮

笠間 明(美術学生)/本郷直樹
今村友雄(珠子の婚約者)/堀 之紀

田村刑事/北町嘉朗
小林少年(明智の助手)/柏原 貴

映画監督/高木二郎
相川操一/増田順司

櫻井品子の父/松本朝夫(松本朝生)
映画プロデューサー/湊 俊一
警官/伊藤 高
春川月子(「燃える女」の主演女優)/三崎美奈
相川家の家政婦/志賀真津子

刑事/羽生昭彦
コンテストの司会者/仲良太郎
/今井健太郎
鳶職/沖 秀一
果物店/光 映子
/本多洋子
疋田富美の元同級生/伊木久美子
櫻井家のお手伝い/伊藤晶子

櫻井品子(相川守の婚約者)/永島暎子

吉野圭一郎(俳優、月子の愛人)/永井秀和

アベックの男/菊地 太
警官/井上三千男
映画助監督(カチンコ係)/加藤真琴
/綱島 寛
/堀美恵子
病院の配膳係/小甲登志枝(小甲登枝恵)
/山岸あけみ
/堀川まい

/工藤和彦
警官/市東昭秀
刑事/篠原靖夫
熱帯動物研究所員/鈴木謙二(鈴木謙一)
/高橋正則
/高杉和宏
/斎藤朋彦
アナウンサー/青木克博

波越警部/荒井 注

殿村京子(英語の家庭教師)/宇津宮雅代

■ストーリー

新作映画「燃える女」のロケ地から主演の春川月子(三崎奈美)と吉野圭一郎(永井秀和)が謎の失踪。その夜、英語教師の殿村京子(宇津宮雅代)と教え子の相川珠子(野平ゆき)と今村(堀之紀)は、吉野と月子が黒眼鏡の男(入川保則)に虐殺されかかっている現場に遭遇する。やがて発見された2人の死体には、赤いさそりの紋章が刻まれていた。
月子の死で映画の主演は珠子に回ってくるが、その珠子にも赤さそりからの殺人予告状が届く。兄の相川守(速水亮)と京子は明智小五郎(天知茂)に事件を依頼するが・・・

■美女ファイル No.9

宇津宮雅代
宇津宮雅代
殿村京子役。1948年生まれ(当時31歳)。東京都出身。
文学座付属演劇研究所生を経て文学座に入団。
1970年から82年までTBSの時代劇「大岡越前」シリーズに大岡忠相の妻・雪絵役で出演。ほかに映画「雪華葬刺し」(1982年)、TV「京都妖怪地図」(1980、1981年)など。
俳優の西岡徳馬さんと故三浦洋一さんは元夫。

■管理人の感想

改めて言うまでもないことですが、このシリーズは「美女」にまつわる難事件を名探偵明智小五郎が解決するのが共通フォーマット。でもこの条件に合致する乱歩の原作が、そう多くあるわけではありません。かと言ってテレビ局としては折角の人気シリーズを簡単に終わらすこともできませんので、原作を大幅に改変してシリーズを継続して行くことになります。この作品からタイトルの順番が従来とは逆になり、「〜の美女」が先に表示されて原作名は後ろに来るようになったのも、そう言う事情を反映しているのかもしれません。事実上、シリーズはこの作品から第二期に入ったと見なすこともできます。
ドラマと原作では犯人の動機が大きく異なっています。 原作の犯人は、自分の醜い容貌へのコンプレックスから美しいものを憎み、美女たちを次々と殺戮すると言う、今からすればトンデモな設定になっています。この通りにドラマ化したら人権問題になりかねないと言う配慮だったのか、それとも単純に、犯人が醜女では「美女」シリーズにならない、と言うだけの理由だったのかもしれませんが、いずれにしろ、ドラマでは犯罪動機が大幅に薄められています。
もうひとつ、原作の探偵役は明智小五郎ではないので、ドラマでは当然これを明智に置き換えています。ただ、乱歩が通俗長編で明智以外の探偵役を使う時はそれ相応の理由、つまり探偵が明智では物語の展開上差し障る事情があるからこそなんですね。そこを留意した上でうまく明智に置き換えないと、話が少しおかしくなってしまいます。

物語は冒頭、華やかな美女コンテストの裏側で繰り広げられる、女のドロドロした情念で幕を開けます。 コンテストは予め最初から優勝者が決められていた出来レースだったので、勝者の三崎奈美に対して敗者の野平ゆきと永島暎子が嫉妬と憎悪をたぎらせます。冒頭に登場する3人の「美女」が、心は見かけほど美しくない点。ここが物語のひとつの「伏線」になっています。
最初に三崎美奈と永井秀和、次いで野平ゆきと堀之紀のカップルが立て続けに惨殺されます。 ここで明智小五郎は、明智らしくもない大失策をしでかしてしまい、被害者を救うことできません。
まず、事務所に乗り込んできた賊・入川保則に後頭部を殴打され気絶し、地下室に閉じ込められてしまう有様。よりによって自分の城の中で敵の手に陥るなんて、情けなさを通り越しています。 更に、先回りして待ち伏せしたまでは良かったが、ここでもまた負傷して犯人を取り逃がしたぱかりか、被害者を奪還された挙句に殺されてしまうとだらしなさ。およそ名探偵とは思えぬチョンボ続きです。明智ともあろうものが、どうしたことでしょうか…。
それもそのはず。最初に述べたように原作に登場するのは明智ではなく、三笠竜介という、からっきし腕力のない老人の探偵だからです。原作の三笠老探偵は失敗続きで最後まで周囲から不信を持たれてしまうと言うという設定でした。 ドラマでもそのエピソードをそのまま明智に置き換えてしまったがために、なんともだらしのない、明智らしくもないメイ探偵振りを発揮することになってしまったというわけです。
そしてもう一つ、原作そのままの設定を使ってしまったために違和感があるのは、入川保則扮する賊が、明智も驚くほどの完璧な変装術を心得ているという点です。素人がどこでそんな術を会得したのか、全く説明がありませんので、これなどもちょっと不自然過ぎます。やはり「変装ベリベリ」は、明智だけの特権にしておくべきでしょう。
一方では、原作の改変が功を奏している部分もあります。 妖虫の魅力に取り憑かれた美術学生(本郷直樹)と言うオリジナルのキャラクターを登場させ、永島暎子との共謀を疑わせることで事件を複雑にしている点はなかなか上手く作っています。更に「妖虫博士」と呼ばれる匹田博士父娘を物語の背後に置くことで、事件のシンボルとしてさそりが用いられることの必然性を与えています(原作ではこの部分が弱い)。物語の前半では妖虫=さそりを巡る事件の怪異な雰囲気を作り出し(さそりがいかにも作り物然としているのは難点ですが)、後半ではそれを犯人の犯罪動機に結び付けていく展開は巧みです。 そして、原作の醜貌コンプレックスに代わるものとして、さそり形のシミのせいで新婚初夜に男から捨てられてしまった女の憎悪を犯罪動機として打ち出しています。しかしこの辺を視聴者に納得させられるかどうかは、なかなか難しいところ。人間の内面の問題ですから、第三者から見て「何もそんなことで・・・」と思う動機で犯罪に走るケースは、現実にもいくらでもあります。要は、物語上で無理のないものになっているかどうかにかかっています。再三、男に捨てられるシーンを繰り返したり、散る花のイメージを挿入したりする演出で女の薄幸を強調してはいますが、、、やはりイマイチ成功しているとまではいい難いように思います。

天知さんは今回、明智とニセ明智の二役(って、どっちも同じですが^^;)を演じています。さすが新東宝時代は悪役で鳴らしただけあって、ニセ明智を演じるときの陰険そうな眼差しや不気味な悪人笑いは堂に入っています。 最後は犯人から「明智さん好きよ。一緒に死んで!!」と真正面から迫られ、先生かなりタジタジ。燃え盛る炎の中に、自ら飛び込んで行きた気な様子を見せるなど、すっかり美女の魔性の魅力の虜になってしまった感があります。なので文代さんの嫉妬の炎も、いつも以上に燃え盛っています。文代さん役五十嵐めぐみさんの、カーリーヘアと言うかおばさんパーマのようなモジャモジャ頭も印象的です。
ヒロイン殿村京子を演じた宇津宮雅代さんは「大岡越前」の楚々とした奥方役の印象が強いので、こう言う情念の激しさを感じさせる役柄と言うのは非常に新鮮です。スリップ1枚で縛られているシーンなども色っぽかったですね。ただ、おかっぱヘアはあまり似合っていませんでしたが^^;
今回の脱ぎ役である三崎奈美さんと野平ゆきさんは、ともにシリーズ2度目の出演。ちなみに野平ゆきさんはシリーズの初代美女役・三ツ矢歌子さんの長男(つまり三代目小林少年役の小野田真之さんですね)と後に結婚・離婚されたそうです。
相川守役の速水亮さんは御存知「仮面ライダーX」の主人公・神敬介。大映最後のニューフェイス出身で、天知さんとは大映時代にも共演しています。櫻井品子役の永島暎子さんは当時汚れ役の多かった永島さんには珍しくタカピーなお嬢様役。










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