江戸川乱歩の美女シリーズ
江戸川乱歩「暗黒星」より 黒水仙の美女
黒水仙の美女
制作松竹 テレビ朝日
放送局テレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」
放送日1978年10月14日(土) 21:00-22:24

■スタッフ

製作担当/植野晃浩 宇都宮恭三(テレビ朝日)
プロデューサー/佐々木 孟
原作/江戸川 乱歩 「暗黒星」より
音楽/鏑木 創 撮影/加藤正幸
美術/猪俣邦弘 録音/鈴木正男 照明/石渡健蔵 編集/寺田昭光
助監督/佐光 曠 装置/森 篤信 装飾/印南 昇 記録/福島マリ 進行/水島誉志次
美粧/ビアンコ 調音/松竹録音スタジオ 現像/東洋現像所
製作主任/沼尾 鈞 衣装協力/キングシープ紳士服
脚本・監督/井上梅次

■キャスト

明智小五郎(私立探偵)/天知 茂

三重野早苗(伊志田家の看護婦)/江波杏子

伊志田待子(伊志田鉄造の長女)/ジュディ・オング

文代(明智の助手)/五十嵐めぐみ

伊志田悦子(伊志田鉄造の次女)/泉じゅん

田村刑事/北町嘉朗
伊志田君代(伊志田鉄造の後妻)/空あけみ

伊志田鞠子(伊志田鉄造の三女)/石川えりこ
アパートの老婆/戸田春子
きょう子を貰って行く男/小田草之介
刑事/羽生昭彦

伊志田太郎(伊志田鉄造の息子)/北 公次

伊志田たみ(待子の祖母)/原 泉

刑事/山崎純資
伊志田静子(伊志田鉄造の先妻)/玉井ゆみ
/篠原靖夫
/沖 秀一

荒川(待子の恋人)/伊藤哲哉
/吉沢優子
/みのわかよこ
少女時代のきょう子/佐藤野里子
/車 邦秀

波越警部/荒井 注

伊志田鉄造/岡田英次

■ストーリー

明智小五郎(天知茂)と助手の文代(五十嵐めぐみ)は、億万長者で彫刻家である伊志田鉄造(岡田英次)の個展会場で伊志田の娘・待子(ジュディ・オング)から奇妙な依頼を受ける。その内容は、家に悪魔が住み着いているので追い払って欲しい、というものだった。
その晩、待子からの助けを求める電話で伊志田邸に駆けつけた明智は、不気味な笑い声で飛び跳ねる黒い影を目撃する。 伊志田邸に泊り込んだ明智は、伊志田の先妻の子の待子とその祖母のたみ(原泉)、後妻の君代(空あけみ)とその子供である太郎(北公次)、悦子(泉じゅん)、鞠子(石川えりこ)が同居する伊志田家の複雑な家庭事情を知る。
やがてある晩、再び現れた黒い影を追いかけた明智は、ピストルで撃たれて負傷してしまう…

■美女ファイル No.5

江波杏子
江波杏子
三重野早苗役。1942年生まれ(当時35歳)。東京都出身。
母・江波和子は戦前に活躍した映画女優。
1959年、大映に入社。66年から始まった「女賭博師シリーズ」に主演して看板スターになる。
大映倒産後は演技派女優として活躍し、映画「津軽じょんがら節」(1973年)の主演でキネマ旬報主演女優賞を獲得。 出演作に「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」(1966年)、TV「Gメン'75」(1981〜82年)など。

■管理人の感想

1作目から概ね原作通りにドラマ化されていたこのシリーズですが、5作目の今回は初めてストーリーに手が加えられていて、登場人物と犯人の設定が違っています。 その理由として考えられるのは、原作の犯人設定が「魔術師」の完全なバリエーション、つまり二番煎じだと言う点です。
「魔術師」の犯人とその動機は、非常に特異でインパクトの強いものです。言い換えると、この手が使えるのは「1度きり」だと言うことです。尤も小説の世界なら連載時期が違い、従って読者も違うので、二番煎じで同じ手を使うのもアリだったのかもしれません。 実際、「魔術師」は昭和5年(1930年)、「暗黒星」は昭和14年(1939年)連載なので9年も間が空いてあります。
しかしこのテレビシリーズで「魔術師」を原作とする「浴室の美女」が放送されたのはたった9か月前ですから、 当然視聴者は「なーんだ、こないだと同じじゃん」と気づくでしょう。シリーズも後半になると毎度お馴染みのパターンの繰り返しが多くなって行くのですが、この時点ではまだ1作毎に丁寧な作り方をしています。なので井上監督(脚本も書いている)としては、1年も経たぬ間にすぐまた同じ手法を使うことに対して抵抗があったのではないでしょうか。

と言う訳でドラマには原作にない人物・看護婦の早苗が登場し、江波杏子が演じています。まあ、江波さんほどの大物が出ている時点で犯人は既にバレバレですけどね^^;むしろわからないのは、誰がこの作品の「美女」役なのかと言うことの方です。
単純にタイトルを解釈すれば黒水仙の香水をつけていた待子=ジュディ・オングのように思えます。しかし物語を最後まで見ればわかるように、実は黒水仙の香水で待子を装っていたのは別の人物、早苗=江波杏子でした。つまり「黒水仙の美女」は2人いたわけです。
従ってこの作品に限っては「美女」役が2人と言うことになりますがあえて1人に絞るなら江波さんでしょう。この作品のメインゲストが早苗=江波杏子であることは明らかだし、物語上でも最後に真の「黒水仙の女」として指摘されるのは早苗だからです。

お話の方は、不気味な彫刻屋敷に飛び交う謎の黒い影、夜な夜な時計塔に現れる黒衣の女、複雑な家庭関係、エキセントリックな老婆の存在など、妖しいけれん味たっぷり。 途中、天知茂扮する明智先生が負傷して入院、物語の表舞台から一旦姿を消してしまうと言う点が天知ファンとしてやや物足りなくはありますが、その間、先生の代わりに文代=五十嵐めぐみさんの活躍が見られるという点では物語の構成にぬかりはありません。個人的には、祈祷師とか妖婆と言ったらこの人しかいないと言うはまり役の原泉の怪演が存分に観られる点だけでも評価高し(笑) ただ正直言ってラストシーンで江波さんが突如サーカスの衣装で踊り出した時にはちょっと頭痛くなってしまったのですが…この辺はかつて映画「黒蜥蜴」(1962年)をミュージカル仕立てにしてしまうという破天荒な演出を見せた井上監督ならではと言うべきですかね。最後にはその華やかな動的場面から一転、静寂に至る対比が犯人の悲しい最期を浮き彫りにするエンディングとして効果的ではあります。

途中でも触れたように、我らが明智小五郎は負傷して入院しているシーンが長く、活躍度全開と行かないために、物語の展開自体もモタモタするのは少しもどかしいところ。しかし泉じゅんの誘惑を巧みにかわす時のキザな演技や、例によって何の必要があったのかよくわからない、犯人の真似をした時の黒タイツ姿とか、見所も多し。
どうでもいい些細なことですが、非常に気になったシーンがあります。それは伊予田邸に泊り込むことになった明智先生が、文代さんに着替えの下着まで買いに行かせていることです。下着、つまりパンツですよねえ。。いくら親密な師弟の間柄とは言え、中年男が妙齢の女の子にパンツまで買いに行かせますかねえ?また、いかに気丈な文代さんとは言え、恥じらいもなく男物のパンツを買いに行って平然としているなんて、ちょっと不思議です。この二人は、いったいどういう関係なんでしょうか??ほんとに単なる探偵と助手なのか、それとも…。非常に想像をかきたてられますね(って、そんなことを想像しているのは、私だけ?^^;)

江波杏子さんは非常にシャープでスケールの大きい、エキゾチックな日本人離れしたというか日常離れした美貌の持ち主なので、チマチマしたテレビドラマにはあまり似合わない、やはり映画の大スクリーンの方が個性を発揮できる女優さんではなかったかと思います。
ジュディ・オングさんは潤んだ大きな目、濡れた半開きの唇が何ともセクシー&ビューティー。ミリオンセラーになった大ヒット曲「魅せられて」はこの翌年なので、1年後だったらこういう役では出てくれなかったかもれません。
泉じゅんさんはこの作品の所謂「脱ぎ役」ですが、ポルノ女優さんの中ではかなりメジャーな方だったと記憶します。水沢アキさんにちょっと似た清純派童顔美人で、巨乳でかつ張りのある胸の形もきれい。一般映画やドラマで普通の役としても活躍しました。毒舌が売り物の料理研究家・結城貢と結婚した時には驚きましたけどねー。
岡田英次さんは日仏合作映画「二十四時間の情事」などで国際的にも知られた名優ですが、一方ではB級な娯楽作品にも結構出演しています。このシリーズには3度出演していますが、最初の今回が一番まとも?な役でしたね。この後は、浴槽からプクプク浮かんでくる死人役(「エマニエルの美女」)→ただのエロ親父(「鏡地獄の美女」)と、だんだん汚れ度が増していくのが、何とも。
人気アイドルグループ・元フォーリーブスの北公次さんは今時のジャニタレと違って俳優としての活動は非常に少ないのですが、まあこの演技力じゃ無理もありません。
鞠子役の石川えり子さんは70年代に活躍した子役さん。有名なところでは「レインボーマン」(1972年、画像左)で主人公の妹役を演じていました。その後は「大江戸捜査網」などにも出演されていたようです。

「レインボーマン」の石川えり子
伊志田鉄造の後妻・君代を演じた空あけみと言う女優さんは、不思議なことにこれ以外のドラマ出演記録が見当たりません。遡ってみると、終戦直後の松竹に同名の女優さんがおり、名作と言われる「安城家の舞踏会」(1947年、吉村公三郎監督)にも重要な役で出演しています。

「安城家の舞踏会」の空あけみ
しかし数本の映画に出演した記録があるだけでキャリアが途絶えています。ところが約30年経ったこのドラマで突如カムバック。しかもこれ1作きりで消えてしまいました。 どういう理由で30年も経って復帰し、そしてまた辞めてしまったのか不思議です。











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