■スタッフ
制作担当/植野晃弘(テレビ朝日) |
プロデューサー/佐々木 孟 |
原作/江戸川乱歩「魔術師」より |
脚本/宮川一郎 |
音楽/鏑木 創撮影/加藤正幸 |
美術/横山 豊 録音/原田真一 照明/石渡健蔵 編集/寺田昭光 |
助監督/伊藤 聚 装置/森 篤信 装飾/宮崎琢郎 記録/福島マリ 進行/徳重里司 |
美粧/ビアンコ 調音/松竹録音スタジオ 現像/東洋現像所 製作主任/中新井和夫 |
協力/榛名レークホテル ドレクセル 衣裳協力/ジュネ |
監督/井上梅次 |
■キャスト
明智小五郎(私立探偵)/ | 天知 茂 |
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綾子(奥村源造の娘)/ | 高橋洋子 |
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文代(明智の助手)/ | 五十嵐めぐみ |
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玉村妙子(玉村善太郎の娘)/ | 夏樹陽子 |
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玉村一郎(玉村善太郎の息子)/ | 志垣太郎 |
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田村刑事/ | 宮口二郎 |
福田得二郎(宝石商、玉村善太郎の弟)/ | 高桐 真 |
サエキ(玉村家の家政婦)/ | 白石奈緒美 |
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音吉(玉村家の庭番)/ | 北町嘉朗 |
刑事/ | 池田駿介 |
ミサコ(玉村幸右衛門の妾)/ | 水原ゆう紀 |
看護婦/ | 服部由美子 |
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玉村善太郎(富豪)/ | 佐野周二 |
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奥村源次郎(奥村源造の父)/ | 加島 潤 |
玉村幸右衛門(玉村善太郎の父)/ | 渡辺紀行 |
奥村の部下/ | 園田健二 |
福田家の家政婦/ | 村上記代 |
刑事/ | 篠原靖夫 |
奥村の部下/ | 山崎純資 |
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福田家の使用人/ | 羽生昭彦 |
奥村の部下/ | 沖 秀一 |
魔術団の団員/ | 長沢政義 |
/ | 城戸 卓 |
榛名湖のホテルのフロント/ | 加藤真琴 |
/ | 入江正夫(入江英義) |
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波越警部/ | 荒井 注 |
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奥村源造(魔術師)/ | 西村 晃 |
■ストーリー
榛名湖で休暇中の明智小五郎(天知茂)は大富豪玉村(佐野周二)の娘・妙子(夏樹陽子)に出逢い、惹かれる。そこへ妙子の叔父・福田徳次郎(高桐真)から、誰かに殺されるかも知れないと言う連絡が入り、妙子は急遽帰京する。福田は妙子や波越警部(荒井注)、妙子の弟・一郎(志垣太郎)の勧めで明智に事件を依頼する。だが明智は上野駅で何者かに拉致されてしまう。その晩、部屋には厳重に鍵がかかっていたにも関わらず福田が殺害される。
一方、明智はいずことも知れぬ船上に囚われており、綾子(高橋洋子)と言う娘に世話されていた。やがて壁のピエロの面から"魔術師"と名乗る奥村源造(西村晃)が現れ、玉村一族に復讐すると告げる。明智は綾子の手引きで脱出しようとするが、追い詰められて海の藻屑と消えた…。
■美女ファイル No.2
夏樹陽子
玉村妙子役。1952年生まれ(当時25歳)。三重県出身。
ファッションモデルから女優に転じ映画「空手バカ一代」(1977年)のヒロインでデビュー。テレビドラマ「ザ・ハングマン」(1980年)などで人気を集め、現在はジュエリーデザイナーとしても活躍。
このシリーズでは第12作
「エマニエルの美女」で二度目の美女役を演じ、北大路欣也版の「妖しいメロディの美女」(1986年)でも美女役を務めています。
■管理人の感想
前年7月から始まった「土曜ワイド劇場」が初めて迎えた新年にその第1弾として放送された作品。以後、お正月や改編期などに節目を飾るのは美女シリーズというのが恒例化して行きます。管理人個人もここからシリーズを見始めたので最も思い出深い作品ですが、それを抜きにしてもシリーズで1、2を争う傑作だと思います。
内容は概ね原作に忠実ですが、ひとつだけ大きく違っているのは、魔術師の娘・綾子の設定。
原作では、魔術師の娘として登場する人こそ文代さんであり、しかもこの事件で明智と恋仲となりやがて結婚するという経緯を辿っています。しかしこのシリーズでの文代さん(五十嵐めぐみ)は既に1作目から別人格のキャラクターとして登場しているのですから、ここだけは原作と同じにするわけにはいきません。従ってドラマで魔術師の娘は綾子という名前に変更され、そして勿論明智との恋愛関係などはなく単に"賊の娘"というだけのやや地味な存在になっています。しかし、それによっても決してドラマの出来を損なうものではありません。
榛名湖畔での明智と妙子との邂逅。恐るべき殺人予告状。知らせを聞いて帰京した明智の拉致監禁。そして、予告通りの大胆不敵で残虐な殺人…!!乱歩の通俗長編小説の中でも屈指の面白さを誇る原作の魅力を余すところなく表現していて、息をもつがせません。まあ、詳しい中身は実際のドラマを見ればわかることなので省略しますが、ここで注目すべきはこのシリーズのフォーマットが2作目にして既に確立している点です。
まず、荒井注演じる波越警部が本作で初めて登場しています。
波越警部は乱歩の通俗作品にしばしば登場する明智の相棒株、所謂ワトソン役ですが、原作の生真面目な警察官と言う性格を一変して、このドラマではコミカルな役柄を担っています。最初に観た時は、何でこんなボンクラなキャラクターにしたんだろうと思ったのですが、荒井注さんの振りまく明るい雰囲気が、ややもすれば暗く陰惨になりがちなストーリーを救っている、緩衝材としての役割を果たしています。
また、実はイメージほど無能ではなく、頭脳では明智には遥かに遠く及ばないものの(本人曰く「月とすっぽん、太陽とナメクジほどの差」笑)、現場捜査官としては堅実で抜け目がなく、有能で信頼できる人物であればこそ明智も親友として長く付き合っていることがよくわかる設定になっています。
次に、このシリーズで欠くことのできない美女の入浴シーンも本作で初めて登場しています。
何しろタイトルからして「浴室の美女」だし、しかもタイトルバックからいきなり夏樹陽子の入浴シーン!!これだけでもう、期待(何を?)ぜすにはいられましょうか(;´Д`)
また、「運命に翻弄される美女」と言うこのシリーズのコンセプトも、本作から明確に打ち出されています。
更に、「明智先生死亡!?→変装ベリベリ〜で復活」の定番パターンが早くも本作で登場している点は見逃せません。後にシリーズでステレオタイプと化したわざとらしい「変装ベリベリ」とは違って本作での変装には違和感がなく、必然かつ自然である点も注目です。
出演者に目をやれば、まず何と言っても特筆すべきなのは妙子を演じた夏樹陽子さんです。
当時まだ25歳とは思えない妖艶な美しさは圧倒的。また、単に美しいだけではなく演技力もしっかりしているからこそ、その哀しい最期が胸に響きます。彼女を運命の楔から解き放つ明智の優しさとともに終わるラストはシリーズ最高の名場面と言っていいでしょう。
そして忘れてはならないのは、魔術師こと奥村源造を演じた西村晃さん。後年は「水戸黄門」の二代目水戸光圀役を演じましたが、この当時は悪役を多く務める怪優として知られていました。その胡散臭い魅力は如何なく発揮され、特に復讐の根拠となる無声映画で弁士を務める場面での名調子などは絶品。白塗りをしたピエロの顔を壁から突き出す場面など、下手をすれば荒唐無稽なだけに終わってしまうかもしれないこの物語を支えているのは西村さんの縦横無尽な演技力の賜物でしょう。
佐野周二さんは地なんだか演技なんだかわからない癇癪持ちの富豪役。新聞を持つ手がわざとらしくガタガタ震えるシーンは笑えますが、驚いたことに首吊りの死体役まで演じています。
佐野さんは確かこの後間もなく亡くなったと記憶していますが、松竹を代表する往年の二枚目大スターが最後にこんな汚れ役をやっていたのかと思うと複雑です。
童顔ポッチャリ体型の高橋洋子さんはNHK朝の連続テレビ小説「北の家族」(1972年)でヒロインを演じた当時の若手女優のホープ。土曜ワイド劇場の第1回放送作品「時間よとまれ」にも渥美清の相手役で出演しています。後に小説家に転向して女優は辞めてしまいましたが、今でも文筆活動はしているのでしょうか。
さて、最後に述べなければならないのは、明智小五郎=天知茂のことです。と言うのも冒頭で触れたように管理人はこの作品から「美女シリーズ」を見始まったので、当然ながら天知さん演じる明智小五郎も初めて見たわけです。当時はポプラ社版の少年探偵団シリーズを既に読み終わって春陽堂文庫とか角川文庫とかに収録されている乱歩の大人向け作品を読み始めていた時期だったのですが、たまたま「魔術師」は放送直前に読んだばかりでした。なのでまさにタイムリーなドラマ化!その日は待ち遠しくて、特に放送開始時にはテレビの前で正座状態でしたね(笑)
そして期待に違わずドラマの内容は概ね原作通りであり、乱歩ファンとして大いに満足のゆく出来でした。
ただ一点、主役の明智小五郎を除いては…。
そうです、最初は天知さんの明智に違和感があったのです。
だってぇ…私の頭の中にあった明智探偵のイメージは、ポプラ社版の少年探偵団シリーズの挿絵にあったような「長身痩躯で知的な二枚目」と言うもの。なのに天知先生と来たら、人相悪いし^^;背ぇ低いし^^;;やや中年太りだし^^;;;
うーん、子供の夢が壊れた…とまでは言いませんが、かなりのギャップを感じたことは否定できませんねえ。。。
しかしこの違和感はその後シリーズを見続けているうちに解消されました。
単純に天知さんに見慣れて馴染んできたということもあるのですが、それだけではありません。
と言うのは、乱歩の通俗探偵小説に登場する犯人は概ね、一見、猟奇的な異常性格者を装いながらその背後で巧妙な犯罪計画を推進する「犯罪の天才」として描かれることが多いです。これに対抗する明智は、緻密な論理で快刀乱麻に事件を解いてみせると言うより、犯罪者の心理分析を中心にしながら徐々に犯人像に近づいていくという手法をとります。つまり、あたかも明智自身が犯罪者になり切ってしまうことが重要なんですね。従って原作の中の描写がどうあれ、明智の外見が爽やかな二枚目では映像的には説得力がありません。そこで犯罪者をも凌駕する妖しいエロスを兼ね備えた天知茂先生のような俳優でなければやはり明智の役は務まらない…
と、まあ、当時はそんなに難しく考えたわけではありませんが、何となく直観的に了解できたような次第です。